赤身を帯びている、黒っぽくなっている高齢者の皮膚を見て、違和感を感じたことはありませんか?
これは、褥瘡(じょくそう)と呼ばれる皮膚の病気の1つかもしれません。
褥瘡は進行すると組織壊死を起こし、骨、腱、筋肉が確認出来るぐらい深いところまで進行します。しかし事前の対策で予防することができます。
では、褥瘡はなぜ起こるのかご存じでしょうか。今回は、褥瘡が起こる原因と予防について解説します。
【情報配信中】施設・ご自宅へのお薬のお届けや管理を薬局にお願いする方法など
褥瘡とは
褥瘡は、一般的に「床ずれ」とも呼ばれています。
日本褥瘡学会では、「身体に加わった外力は骨と皮膚表面の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」と定義されています。
引用:日本褥瘡学会 科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン
ずっと寝たきりの状態で、骨と皮膚の間に力が長時間加わり続けると、組織(たくさんの細胞の集まり)が傷ついてしまいますよね。
なぜ褥瘡は起こるのか
椅子に座ったり、ベッドの上で寝たり、外からの力を受けると骨と皮膚の間に様々な力が加わります。その力によって、血流が悪くなり栄養や酸素が組織に行き渡らなくなります。それが組織壊死に繋がり、褥瘡となります。(1)
褥瘡の原因には、直接的要因と間接的要因があります。
- 直接的要因
・自分で寝返りをうつことが出来ず、同じ部位を圧迫し続けてしまう。 - 間接的要因
■全身的要因
・低栄養によって皮膚の弾力性が低下する。
・やせ型になることで皮下脂肪や筋肉量が低下し、骨突出になりやすい。
・加齢や基礎疾患(骨粗鬆症や糖尿病など)による活動量の低下。
・心不全、肝臓や腎臓の機能低下などによる浮腫み
■局所的要因
・加齢によって皮膚が乾燥しやすくなり、外の刺激に対して皮膚が弱くなっている。
・体位を変えたことによる摩擦やずれ。
・寝たきりによる尿失禁や便失禁、汗によって皮膚が汚染されやすい状態、湿っている状態が続いている。
・ステロイドや免疫抑制剤などの薬剤によって、感染症を発症しやすかったり、傷の治りが遅くなっていたりする。
・皮膚に炎症がある、または、感染症がある。
■社会的要因
・人手が足りないなどの介護不足。
・社会的サービス、制度の情報不足。
・経済的に難しい。
褥瘡の発症には、直接的な外部からの力だけではなく、基礎疾患、加齢によるもの、または人手や情報不足など、さまざまな要因が関わっていると分かりますね。(1)
褥瘡が進行するとどうなるのか
症状が軽い場合は皮膚が赤くなる程度ですが、進行すると皮膚組織の壊死による潰瘍、皮膚の欠損、筋肉組織や骨が露出してしまうケースもあります。
代表的な分類として使用されるものは、NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)分類です。
NPUAP分類は、損傷の具合によって以下の6つのステージに分類しています。 (2)
- DTI(Deep Tissue Injury)疑い:DTIとは皮膚に発疹がなく、軽度の褥瘡に見えていても深部では損傷が起こっている状態を示します。紫や栗色の皮膚の変色、水ぶくれの中に血液が入る血疱(けっぽう)が見られます。
- ステージⅠ(消退しない発赤):皮膚に損傷はなく、消失しない発赤が現れます。通常、骨突出部位に多く見られています。
- ステージⅡ(部分欠損): 黄色壊死組織(スラフ) はなく、赤色または薄赤色の潰瘍面が現れます。水泡が現れあることもあります。
- ステージⅢ(全層皮膚欠損):皮下脂肪が確認できるぐらい皮膚全層が傷ついた状態。骨、腱、筋肉は露出していませんが、 スラフ が存在している場合があります。またポケットや炎症などにより生じる管状の穴、瘻孔(ろうこう)が存在する場合もあります。
- ステージⅣ(全層組織欠損):骨、腱、筋肉が露出をしている状態。黄色または黒色の組織壊死が見られます。ポケットや瘻孔が存在する場合が多いです。
- 判定不明:潰瘍が壊組織壊死で覆われていて、褥瘡の深さが判定できない状態。
褥瘡を予防する4つの方法
進行すると症状が酷くなる褥瘡ですが、予防によって褥瘡の発症や、重症化を抑えることができます。
ここでは、褥瘡を予防する4つの方法をご紹介します。(3)
1.体位変換を行う
褥瘡は長時間、同じ部分を圧迫することが原因の1つとなっています。それを避けるため、定期的に体位変換を行いましょう。
体位変換は基本的には2時間ごとに行うのが良いとされています。また、ベッドからの転落の防止、ベッドと皮膚の摩擦やずれを避けるために体位変換は2人で行うのが良いとされています。
もし1人で行う場合は、回転させやすくするためのシートを使用して行いましょう。
※シートの例
2.体圧分散寝具を使用する
体圧分散寝具を使用すると、圧力を分散できるため、褥瘡の予防に繋がります。
自力で体位変換ができるかどうか、骨の突出があるかどうかなど、各個人の状態によって寝具のタイプや素材が変わってきます。
状態をよく把握し、その方に合った寝具を選ぶことが大事ですね。
3.栄養をしっかり摂る
低栄養も褥瘡の原因となるため、栄養をしっかり摂ることも大事な予防になります。
日常の食事だけでは十分な栄養を摂取できない場合、高エネルギー、高蛋白質のサプリメントを追加することで褥瘡の予防になるとされています。ただし、持病に考慮したうえで追加しなければなりません。口からの摂取が困難な場合は、経腸栄養、経静脈栄養によって栄養を補うことができます。
また、体重の減量も褥瘡の原因の1つとなっているため、体重管理も大事なポイントです。(4)
高齢者向きの栄養評価ツールもあるので、そちらを使用するのもおすすめです。
皮膚を清潔に保つ
日頃から皮膚を清潔に保つことも褥瘡の予防になります。
高齢になると尿失禁や便失禁により、長時間皮膚に排泄物が付着した状態や、湿った状態が起こります。それを回避するためにも、排泄物をしっかり洗い流してあげましょう。
刺激性の少ない石鹸を使用し、しっかり泡立てから洗うと効果的です。このとき、ゴシゴシ洗って皮膚への刺激が強くなりすぎないよう、注意してくださいね。
また、洗浄後は、肛門付近に皮膚を保護するクリームを塗ってあげるのも予防の1つになります。
湿った状態だけではなく、乾燥した状態も良くありません。皮膚が乾燥する場合は、保湿効果のあるクリームを塗るようにしましょう。(5)
早めの予防が大事
今回の記事では、以下について説明しました。
- 褥瘡とは一般的に「床ずれ」と呼ばれており、組織の損傷を引き起こす病気である
- 進行すると組織壊死を起こし、骨、腱、筋肉が確認出来るぐらい深いところまで進行する
- 褥瘡には直接的、間接的要因があり、様々な原因が重なって引き起こされる
- 褥瘡には4つの予防法がある
皮膚は体の表面にあり、体を守る機能があります。
褥瘡になると、体を守っている皮膚の損傷や壊死を引き起こしていしまいますよね。体を守ってくれている皮膚を失わないためにも、早めの予防は大事です。何か気になる皮膚の症状や変化があったら、お近くの介護サポーターや医療サポーター(医師・薬剤師・看護師など)にお気軽に相談してくださいね。
【参照】
(1)maruho>医療関係者の皆さま>褥瘡辞典 for MEDICAL PROFESSIONAL>褥瘡の概要>褥瘡のメカニズム発生の要因
(2)maruho>医療関係者の皆さま>褥瘡辞典 for MEDICAL PROFESSIONAL>褥瘡の概要分類>深達度分類
(3)一般社団法人日本褥瘡学会 > 一般の皆様へ > 褥瘡の予防について
(4)褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)
(5)maruho>患者さん・一般の皆さま>褥瘡辞典 for FAMILY > 褥瘡(床ずれ)の予防とケア > スキンケア > 皮膚を清潔に保ち、乾燥から守るために