介護現場において、薬局で薬を受け取る方の大半は「本人ではなく代理の方」ですよね。薬剤師から説明を受けた際、薬の注意点を本人や家族に伝えることは、とても重要なのをご存じでしょうか?
薬の注意事項を伝え忘れてしまい、事故が起こっては大変ですよね。
この記事では以下の2つを中心に、代理の方が薬を受け取る意味について考えていきましょう。
- 代理の方が薬を受け取っても良いのか
- 代理で薬を受け取るときの注意点
介護現場をサポートしている現役薬剤師の筆者が、ご家族目線で解説していきます。
そもそも代理の方が薬を取りに行ってもいいの?
医師の診察が終わると、処方せんが発行されます。
その後は、処方せんを薬局に持参し準備してもらい、薬剤師から薬を受け取るという流れになりますよね。
では、薬剤師から薬を受け取るのは誰でもいいのでしょうか?
受け取る人について、いくつかの法令に書かれているので、わかりやすく紹介していきます。
薬剤師法
薬剤師法という法律で、
“第二十五条の二 薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。”
と決められています。[1]
ということは、薬を受け取れるのは「患者又は現に看護に当たっている者」ということになりますね。
「患者」はもちろん本人で、「現に看護に当たっている者」とは、面倒を見ている人、本人の病状をわかっている人と解釈されています。
具体的には、一緒に暮らしている家族や、頻繁に訪問してお世話をしている方などが「現に看護に当たっている者」に該当すると考えて問題ありません。
「看護」と書いてあるからと言って、「看護師の資格を持っている人」でなければならないという意味ではありませんので注意しましょう。
介護保険の通知
訪問介護サービスの内容を細かく明記した通知が厚生労働省から出ています。[2]
この通知には、「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」の一部に
“2-6 買い物・薬の受け取り
○日常品等の買い物(内容の確認、品物・釣り銭の確認を含む)
○薬の受け取り”
と書かれているので、ヘルパーは受け取り可能です。
介護サポーターのヘルパーは、定期的に訪問し、身の回りのお世話をしているので「現に看護に当たっている者」に該当すると理解できます。
在宅医療推進の通知
がんによる痛みなどで処方される医療用麻薬は、「麻薬及び向精神薬取締法」という法律で厳しく管理方法が決められています。
在宅医療を推進するために、医療用麻薬に関する通知が出されました。
その通知に、
“1 患者の健康状態等に配慮した麻薬の取扱い
患者の健康状態等から、患者が麻薬を受領することが困難であると認められる場合には、現に患者の看護等に当たる看護師、ホームヘルパー等で患者又はその家族等の意を受けた者を、平成10年12月22日付け医薬麻第1854号医薬安全局麻薬課長通知にいう「患者等」に該当するものと解して差し支えないこととすること。なお、前記通知に掲げるバルーン式ディスポーザブルタイプの連続注入器に入った麻薬注射薬以外の麻薬についても同様に取り扱って差し支えないこととすること。”
と記載されているため、「現に患者の看護等に当たる看護師、ホームヘルパー等で患者又はその家族等の意を受けた者」も「患者又は現に看護に当たっている者」に該当しますよ、と理解できます。[3]
簡単に言うと、「本人や家族に依頼された、お世話している看護師やヘルパーなど」も医療用麻薬を受け取れますよということです。
以上より、家族や看護師、ヘルパーなどであれば、代理の方でも薬を受け取ることが出来るとわかりましたね。
代理で薬を受け取るときの注意点
薬局で薬を受け取る際は、必ず薬剤師から薬の説明を受けます。
代理の方は、受け取った薬の説明について、本人や他の家族に伝えなければなりません。
伝え忘れが原因で、ケガやひどい副作用が出たら大変ですよね。
「代理で薬を受け取ること」は、一般的な「おつかい」とは違い、責任重大な役割であることを認識しましょう。
では、薬局で薬を受け取る際に、代理の方が押さえるべきポイントについて紹介していきます。
薬剤師からどんな情報をもらえるか
薬を渡す際に薬剤師が伝えなければならい内容について、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」という法令で決められています。[4]
“第十五条の十三
二 当該薬剤の用法、用量、使用上の注意、当該薬剤との併用を避けるべき医薬品その他の当該薬剤の適正な使用のために必要な情報を、当該薬剤を購入し、又は譲り受けようとする者の状況に応じて個別に提供させ、及び必要な指導を行わせること。”
わかりやすく言うと、
- 薬の名前
- 有効成分の名称
- 飲み方と飲む量
- どんな薬で、どんな症状に効くのか
- 副作用の可能性がある症状が出た場合の対応方法
- その他薬剤師が必要と判断した注意点
- 薬について不明な点がないかどうか
これらの項目は、書面かパソコンなどの画面を使って説明されますが、必ず口頭でのやりとりも行われます。
とくに注意が必要なのは、薬が変更になった場合です。
- いつから切り替えるのか
- 変更前の薬が残っていた場合はどうするか
- 変更になった薬の注意点
説明を受ける項目が多くなるため、しっかり聞いて本人や他の家族に伝える必要がありますよね。
薬剤師に必ず本人の症状を伝えましょう
代理の方は、「本人の様子で気になること」「副作用の症状かもしれないと気づいたこと」について、医師や薬剤師に伝える役割もあります。
- 最近、食欲が落ちてきた
- ふらついて立ち上がれなくなった
- 朝起きれなくなった
- 怒りっぽくなった
どれも薬の副作用として代表的な症状です。
薬の量を調節したり、違う薬へ変更する必要があるかもしれません。
薬剤師からも、「副作用の症状が出ていないか」など、体調の変化について質問されますよね。
細かい変化であっても、本人の様子を正確に伝えるようにしましょう。
「薬の受け取り」は重要な役割と認識しましょう
この記事では、代理の方が薬を受け取る役割について解説しました。
- 本人や世話をして、病状を知っている人など代理の方も薬を受け取れる
- 訪問介護のヘルパーも薬を受け取れる
- 医療用麻薬は、本人や家族に依頼された看護師やヘルパーなども受け取れる
- 代理の方は、薬剤師から受けた薬の説明を本人や他の家族に伝える役割がある
- 代理の方は、本人の様子を医療サポーターに伝える役割がある
代理で薬を受け取る方は、とても重要な役割があるとおわかりいただけましたか?
医療サポーターと本人をつなぐ役割は、在宅医療の要と言っても良いでしょう。
この役割を果たせる代理の方がいない場合や、うまく役割を果たせない場合は、薬剤師に自宅へ来てもらう「訪問薬剤管理指導」や「居宅療養管理指導」を活用する方法もあります。
直接薬剤師が本人や家族に説明できますし、気になる症状を聞くこともできるので安心ですよね。
薬剤師の訪問を活用してみたいと思ったら、かかりつけの薬局に相談してみましょう。
【参照】
[1]薬剤師法(情報の提供及び指導)第25条の2/厚生労働省
[2]老振発0330第2号 平成30年3月30日「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」の一部改正について/9ページ目
[3]薬食監麻発第0331001号 平成18年3月31日 「在宅医療の推進のための麻薬の取扱いの弾力化について」
[4]医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則 第15条の13