【薬剤師監修】介護現場で注意したい「包装シートの誤飲」事故

【薬剤師監修】介護現場で注意したい「包装シートの誤飲」事故

「薬の包装シートは1回分ずつ切り離している」
「薬の包装シートは、最初に細かく切っておいたほうが楽!」

在宅介護を行う中で、薬局からもらった薬の包装シート(PTP)をあらかじめ切っておいた経験はありませんか?
飲みやすくするために薬の包装を切り離すことは、一見とても便利ですよね。
ところが、切り離したことで、命にかかわる重大な事故につながることを知っていますか?

介護現場では、安心安全に薬を飲むことが欠かせません。
薬を飲む際に、事故を起こさない方法を知ることはとても大切です。

  • 包装シートを飲み込む危険性
  • なぜ包装シートを飲み込んでしまうのか
  • 包装シートを飲み込まないためには

上記の3点を中心に、介護現場をサポートしている現役薬剤師の筆者が、ご家族の目線に寄り添って解説していきます。

包装シートを飲み込む「誤飲」の危険性

包装シートは、湿気や紫外線から守るために、プラスチックとアルミからできています。
薬の包装シートをハサミで1錠ずつ切り離すと、角がかなり鋭利になってしまいますよね。
この切り離した包装シートのまま、飲み込んでしまう誤飲事故が実際に起きているのです。

包装シートの誤飲事故がかなり深刻だったため、下のように注意喚起されています。

  • 2010年国民生活センターから注意の呼びかけ[1]
  • 同じ日、厚生労働省から全国の病院や薬局に対し、しっかり確認するよう通知[2]
  • 新聞などのメディアでも「包装シートの誤飲事故」が取り上げられる

しかし、その後も誤飲事故は発生し、2019年に消費者庁からも注意が呼びかけられました。[3]

誤飲するとどうなるか

包装シートを誤飲しても、何もなければそのまま便と一緒に出てきます。
しかし、下記の理由で注意が必要です。

  • 角が鋭利になった包装シートが、のどや食道を傷つけてしまう
  • 包装シートが刺さった場所に穴が開き、手術になるケースも
  • 痛みが出るまで、誤飲したことに気づきにくい
  • 包装シートはレントゲンでは写らないため発見されにくい

刺さった場所によっては、取り出すのに大手術となることもあり、軽く考えてはいけないと分かりますね。

誤飲の傾向を知っておきましょう

消費者庁からの注意喚起には、誤飲の傾向についても記載されています。

  • 年代別に見ると、75歳以上の誤飲事故が多い
  • 65~74歳に対して、75歳以上では2.5倍にもなる
  • 男性と女性は4対6で、年代が上がるにつれて女性割合が増える傾向がある
  • 誤飲で最も多いのが薬の包装で、次が入れ歯や義歯となっている

誤飲事故は高齢者に多く、介護現場で注意が必要と分かりますね。

製薬メーカーの対策

包装シートの誤飲対策は、製薬メーカーも取り組んでいます。

以前は上図のように、縦と横どちらにもミシン目が入っていて、1錠ずつ簡単に切り離せる包装シートでした。
誤飲が問題になってからは、縦か横のどちらか一方にしかミシン目が入っていません。
1錠ずつに切り離せないよう工夫したのです。

ところが、手で切り離せないならとハサミで切ってしまうため、依然として誤飲事故が起きています。

なぜ包装シートのまま飲み込んでしまうのか

包装シートを1錠ずつ切り離したとしても、そのまま飲み込むなんて信じられないと思いませんか?
なぜ、包装シートのまま飲み込んでしまうのか、原因を探ってみましょう。

なぜ切り離す必要があるのか?

包装シートを切り離すにはどんな理由があるのでしょうか。

  • 薬をピルケースに入れるため
  • 外出先で飲む分だけを持ち運ぶため
  • すぐに薬を取り出し、飲めるようにするため

飲み忘れないようにピルケースに入れて管理していることが、誤飲事故につながるのはとても残念ですよね。

なぜ切り離した包装シートを飲み込んでしまうのか?

1錠に切り離した状態の薬を、なぜ飲み込んでしまうのか整理してみましょう。
高齢者の誤飲が多いことから、高齢者ならではの原因もあるはずです。

  • 手元が見えにくく、包装シートのままだと気づかない
  • テレビを見ながらなど、意識が手元にない場合そのまま飲んでしまう
  • 家族から渡された薬を、包装シートから取り出した状態と思い込む
  • 認知機能がかなり低下している

上に挙げた原因の対策を、家族と薬剤師で連携しながら行う必要がありますね。

包装シートのまま飲み込まない為に

包装シートを飲み込まないために、ポイントを考えてみましょう。
安心安全に薬を飲むために、押さえておきたいのは次の3点です。

1錠ずつ切り離さない

当たり前ですが、1錠に切り離さなければ飲み込めるサイズになりません。
うっかり飲み込んでしまうことを避けるために、まず大切なのは「切らないこと」です。

ただ、どうしても切り離さなければならない場合があるかもしれません。
その場合は、薬を飲む前に、包装シートから小皿などに全て出してから飲む習慣をつけましょう。「小皿に出ている薬が包装シートではない」ことを、目で見て確認できるからです。

1回分ずつピルケースに入れる場合は、あらかじめ包装シートから薬を出してセットしましょう。ただし、湿気や光などに弱い薬など、保管しておく環境に注意が必要な薬もありますよね。包装シートから出してピルケースにセットできる薬なのか、薬剤師に相談しておくと安心です。

家族の確認・チェック

本人が薬を飲む前に、家族によるチェックを行うことも、重要な対策のひとつです。

飲む際は、家族が包装シートから薬を出して渡してあげるのも、安心につながりますね。

包装シートからちゃんと出しているかチェックするついでに、しっかり薬を飲み込めているか、むせたりしていないか、嚥下(えんげ)も併せてチェックしたいところです。

一包化

1回分の薬を包装シートから取り出し、まとめて1つのパックにする一包化(いっぽうか)も対策になります。[4]
一包化は有料ですが、健康保険で対応できる場合もあるので、医師や薬剤師に相談してみましょう。

ほとんどの薬局では、一包化のパックごとに服用する日付を印字したり、「朝の薬には赤色のラインを引く」など工夫をしてくれたり、見た目から分かりやすくなる工夫をしています。包装シートの誤飲だけでなく、飲み忘れ防止にも最適な方法ですね。

誤飲対策は薬剤師に相談しましょう

この記事では、包装シートの誤飲について紹介しました。

  • 注意喚起されているが、誤飲事故は起きている
  • 誤飲は高齢者に特に多い
  • 1錠ずつ切り離してしまうことが原因
  • 有効な対策は、切り離さない・家族によるチェック・一包化

包装シートの誤飲事故は、起きてしまうと一大事だと、お分かりいただけたでしょうか。
だからこそ包装シートを飲み込まないように、予防がとても大切ですよね。
誤飲のリスクはないか、ぜひチェックしてみましょう!

誤飲対策も含めて、自宅での薬の管理を、薬剤師に依頼することも出来ます。
介護現場での薬の管理で困ったら、医師や薬剤師にお気軽に相談してくださいね。

【参照】

[1]注意!高齢者に目立つ薬の包装シートの誤飲事故-飲み込んだPTP包装が喉や食道などを傷つけるおそれも-,独立行政法人国民生活センター,2010年9月15日
[2]PTP包装シート誤飲防止対策について(医療機関及び薬局への注意喚起及び周知徹底依頼),厚生労働省,2010年9月15日
[3]高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!,消費者庁,2019年9月11日
[4]しっかり服薬.com/公益社団法人 石川県薬剤師会
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