【薬剤師監修】認知症介護に役立つ漢方薬について

【薬剤師監修】認知症介護に役立つ漢方薬について

「認知症のせいか、怒りっぽくなった」
「認知症の影響で食欲がなく、栄養不足が心配…」

介護現場では、認知症によるいろいろな症状が心配になりますよね。
このような症状には漢方薬が使われることが多く、介護現場で目にすることも多いのではないでしょうか。
今回の記事では、介護現場をサポートしている現役薬剤師の筆者が、以下の3点を中心に解説します。

  • 認知症になぜ漢方薬が使われるか
  • 認知症に使われる代表的な漢方薬
  • 認知症の方に漢方薬を飲んでもらう方法

認知症で使われる漢方薬について、家族や介護職員の方に知っていただく機会になれば幸いです!

認知症になぜ漢方薬が使われるか

認知症そのもの(中核症状)の治療は、抗認知症薬といわれる「コリンエステラーゼ阻害薬」や「NMDA受容体拮抗薬」という分類の薬が使われます。
認知症の介護現場で負担になっているのは、本人の不安や混乱が引き金とされる、「認知症になることで起こる周辺症状」です。
このような周辺症状には、安定剤など向精神薬が使われてきました。
複数の周辺症状に、複数の向精神薬が処方されることも。

こうした向精神薬の使用は、逆に認知機能が低下して認知症につながるおそれがあるため、中止や減量が推められており、使用する場合は最低限の量で行うことになっています。[1]
また、高齢者は認知症以外の病気を持ち、他にも薬を服用していることが多いのではないでしょうか。複数の向精神薬を使ってしまうと、薬の数がどんどん増えてしまうのも問題ですよね。

そこで、注目されているのが漢方薬です。
複数の周辺症状を改善し、日常生活の手助けをしてくれると言われています。[2]
抗認知症薬と併用できる点もメリットですね。

認知症でよく使われる漢方薬 

認知症の周辺症状について、よく処方される漢方薬をご紹介していきます。

「認知症でよく使われる漢方薬について、より詳しく知りたいかたはこちら」

イライラや怒りっぽい症状に「抑肝散」

介護現場で、特に負担に感じるのは、興奮性の周辺症状ではないでしょうか。

  • ちょっとしたことでイライラする
  • 大きな声を出して怒る
  • 暴力をふるう など

上記の周辺症状に、よく使われるのは抑肝散(よくかんさん)という名前の漢方薬です。
食事をする、着替える、歩くなどの日常の動きを低下させることなく、イライラや怒りっぽい興奮状態を落ち着かせる働きをします。

漢方では、身体のすべての機能や部位などを5つに分類し、「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」という五臓として考えています。

漢方で考える「肝」とは、一般的にいわれる肝臓とは意味合いが異なります。
この「肝」が高ぶると、怒りやイライラが増すと考えます。「肝」の高ぶりを抑えることから、抑肝散と名付けられました。[3]

注意が必要な副作用は、偽アルドステロン症です。症状として高血圧、低カリウム血症、むくみ、手足のしびれなどがあります。
毎日のバイタル測定の際に、血圧や体調の変化がないか確認しましょう。

似たような名前の「抑肝散加陳皮半夏」

抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は、抑肝散に2つの生薬を加え、胃腸の症状にも配慮されています。日本独自の漢方薬で、胃腸機能が低下した高齢者により適していると言えますね。

体重減少が気になったら「人参養栄湯」

認知症では気分が落ち込み、食事をする意欲が低下することも。
高齢者は食が細いので、ますます栄養が不足し、体重が減少してしまいますよね。
最近になり、人参養栄湯(にんじんようえいとう)がフレイル(虚弱)の方の食欲低下と認知機能を同時に改善するとの報告がされています。
服用1ヶ月後に食欲不振が改善されているようです。[4]

人参養栄湯も、偽アルドステロン症による高血圧、低カリウム血症、むくみ、手足のしびれなどがないか確認しましょう。胃腸の調子が悪くなっていないかのチェックも必要です。

認知症の方に漢方薬を飲んでもらう方法

漢方薬の用法は、基本的に「1日3回 毎食前」です。
漢方薬の効果を最大限に出すためには、毎食前に飲んでもらう必要があります。
漢方薬は味が苦手という方、薬を飲みたがらない(拒薬)の方もいますよね。
そんな方に飲んでいただくためにも、飲み方の工夫が重要になってきます。

漢方薬の味やにおい

処方される漢方薬は、ほとんどが顆粒や細粒などの粉薬です。
まず、詳しく紹介した3つの漢方薬の「味」と「におい」について見てみましょう。

引用:ツムラ添付文書

どの漢方薬も、味に渋みがあり、独特のにおいがあるということは共通していますね。
この独特の味やにおいが苦手という方も多いようです。

おすすめの服用方法

通常は、水またはぬるま湯で飲みます。
味や粉薬自体が苦手な方には、以下の方法もおすすめです。

どうしても、1日3回や食前に飲むのが難しい場合は、医師や薬剤師に相談してみましょう。
症状によっては、1日2回や食後などに調整できるかもしれません。

漢方薬という選択肢について相談しましょう

この記事では、認知症で使われる漢方薬について解説しました。

  • 認知症の周辺症状を改善する目的で、漢方薬が処方される
  • 向精神薬の中止や減量が推奨され、漢方薬が使われる
  • イライラや怒りっぽい症状に抑肝散が効果的
  • 人参養栄湯で食欲改善効果が報告されている
  • オブラートや服薬ゼリーなどで飲む方法もある

漢方では独自の理論である、「証」という自分の体質で漢方薬を選ぶ必要があります。
「証」に合わない漢方薬を飲んでしまうと、効果が出ないばかりか、副作用がおこってしまう場合も。

本人の「証」と症状にあった漢方薬はどれなのか、医師や薬剤師に相談してくださいね。

漢方薬で周辺症状が改善し、家族や介護職員の負担が軽減できるケースもあります。
認知症介護の選択肢として、漢方薬を知っていただけたら嬉しいです。

【参照】

[1]かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版),P5
[2]認知症フォーラム.com > 基礎知識 > 医療 > 認知症における漢方の役割とは
[3]クラシエ > カンポフルライフ > 年をとってからのイライラ!暴言・暴力、その原因と解決策を解説!
[4]漢方臨床レポート 認知症患者の食欲低下に人参養栄湯が有用であった4症例,たかはしメンタルクリニック(広島県)高橋 輝道
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