【薬剤師監修】大規模災害時に「薬を切らさない」方法

【薬剤師監修】大規模災害時に「薬を切らさない」方法

「大地震がきたら薬はもらえるの?」
「災害時に病院に行けなかったら大変......」

今年は東日本大震災から10年という節目の年。
日本のどこで大きな地震が起きてもおかしくありませんし、温暖化の影響で洪水も心配です。
介護現場でも、いざという時の対応を話し合っておくと安心ですよね。

東日本大震災で被災し、2日後に薬局を再開させた経験をもつ薬剤師の筆者が、下記の3点を中心に災害時の対応を紹介します。

  • なぜ大規模災害時に受診が出来なくなるか
  • 保険証や財布がなかったら
  • 大規模災害時のお薬手帳の役割

大規模災害時、介護現場に不可欠な薬を切らさないように、考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。

大規模災害時に受診できない理由

大規模災害時には、日常生活だけでなく、受診して薬をもらうことも難しくなります。
どのような状況になるのか想定して、対策を考えておきましょう。
大規模災害時に受診の妨げになるのはどんなことか、まとめてみました。

自宅や介護施設の被災

・自宅や介護施設の建物が損壊し、通院が後回しに
・保険証をなくした
・財布(現金)を置いてきてしまった

病院・薬局の被災

・病院の外来がやっていない
・薬局が閉まっている

通信の麻痺

・電話やインターネットがつながらず、病院や薬局の情報がない
・電話が通じず、病院の予約ができない

通院手段がない

・公共交通機関がストップしている
・ガソリンが入手できない
・車が壊れてしまった
・道路が寸断されている

付き添いの方の被災

・家族や職員が忙しく、通院付き添いまで手がまわらない

10年前と同じように、停電して電話もインターネットも使えない状況になると考えると、本当に困ってしまいますよね。

ただ、特別な事情がなければ、病院や薬局が閉まっている状況は長く続きません。
通常通りの医療体制に戻すため、医療ボランティアなどの支援を受けながら、懸命な復旧作業が行われます。
また、避難所には災害派遣やボランティアの医療チームによって、仮設診療所が開設される場合もあります。

大規模災害時の受診時の支援

国は、大規模災害時の中さまざまなことを想定し、被災者を支援する対策をとります。
東日本大震災や熊本地震、令和2年7月豪雨でも、厚生労働省が素早く対応していました。
では、医療面でどんな支援があるのか見ていきましょう。

被災直後は保険証が不要に

災害時は人命第一ですので、着のみ着のまま避難する場合もあります。
通常保険証なしでは保険診療が出来ません。
しかし、災害時だと「保険証を持っていない!」ということも考えられますよね。

大規模災害時には、病院や薬局で下記の項目を伝えれば、保険証がなくても受診できるようになっています[1]

  • 氏名
  • 生年月日
  • 社会保険の場合は、事業所名
  • 国民健康保険の場合は、住所

わざわざ、危険をおかして被災した自宅に戻り、保険証を探し出す必要はありませんので、安心してくださいね。
災害で紛失した場合は、状況が落ちついたあとに再発行の手続きをしましょう。

保険証と同じように、難病など医療費助成の受給者証がなくても、公費の対象になります。
また、緊急の場合は、公費の指定の病院以外で受診ができるのも助かりますね。
[2]

被災から一定期間は、一部負担金が不要に

「急いで避難したので、財布を持ち出すのを忘れてしまった!」
こちら、何度もお伝えしますが、人命第一の正しい避難方法です。

しかし、お金がなければ、受診しても一部負担金が支払えません。
一部負担金とは、「自己負担額」ともいいます。医療機関で治療を受けた際に、かかった医療費や薬剤費の一部のみ支払う金額のことです。

例えば、6歳未満は2割、6歳から69歳は3割、70歳から74歳は2割というように定められていますよね。[3]
お金がないと「薬が切れてしまうけど、お金がないから入手できない」という状況になってしまいます。

このような時でも、安心して受診してください。
被災地では、被災直後から一定期間、一部負担金が免除されます。[4]
この一定期間が過ぎると、そのあとは被災証明書が自治体から発行され、この証明書があれば一部負担金の免除は継続できるのです。

厚生労働省からの連絡が、病院や薬局に届いていない可能性もあります。心配な場合は、受付時に一部負担金が免除になるか確認してみてくださいね。

お薬手帳が処方せんの代わりに

1番不安なのは、かかりつけの病院が遠い場合や、病院がまだ再開していないときではないでしょうか。通常は、病院が発行した処方せんがないと、薬局で薬をお渡しすることはできませんよね。

でも、ご安心ください。
このような場合、お薬手帳や薬の説明書(薬情)を最寄りの薬局に持参すれば、薬を調剤してもらうことができます。[5]

もちろん、保険証や財布がなくても大丈夫です。
ただし、いつも飲んでいる薬が書いてある「お薬手帳」が必要になります。
お薬手帳は、大規模災害時に処方せんの代わりになると覚えておいてくださいね。
だからこそ、普段からお薬手帳を忘れずに薬局に持参することが大切です。

最近では、スマートフォンのアプリを使った「電子お薬手帳」も導入されています。
利用は無料ですし、通常のお薬手帳とスマートフォン内の電子お薬手帳の両方を持つと、どちらかが無くなったときに安心です。

薬を切らさないために、大規模災害に備えましょう

この記事では、大規模災害時の薬の確保について解説しました。

  • 大規模災害時には病院がやっておらず、受診できない可能性もある
  • 災害時、病院や薬局は懸命に復旧作業をする
  • 保険証や財布がなくても、受診ができる
  • 受診できない場合、お薬手帳を薬局に持参すると、いつもの薬をもらえる

地震や豪雨など、いつ大きな自然災害に見舞われるかわかりません。
普段から備えておくことが大切だと、お分かりいただけたでしょうか。
災害時のことを考えると、手元には1週間ほど多めに薬があると安心です。

防災セット(非常袋)のほかに、保険証・一定額の現金・薬を持って避難すると安心だと意識しておきましょう。
また、災害時の医療について、医師や看護師、薬剤師などの医療サポーターに心配事を聞いておきましょう。

筆者の東日本大震災での経験を、家族や職員の方々の災害対策に役立ててもらえたら幸いです。

【参照】

[1]事務連絡 平成23年3月11日 厚生労働省保険局医療課 東北地方太平洋地震による被災者に係る被保険者証等の提示について
[2]事務連絡 平成23年3月11日 厚生労働省  東北地方太平洋地震による被災者の公費負担医療の取扱いについて
[3]宮城県 病院等窓口での一部負担金はどれくらいかかるの?
[4]事務連絡 平成23年3月11日 厚生労働省保険局国民健康保険課 平成23年東北地方太平洋沖地震により被災した国民健康保険被保険者に係る国民健康保険料及び一部負担金の取扱いについて
[5]事務連絡 平成23年3月12日 厚生労働省医薬食品局総務課 平成23年東北地方太平洋沖地震における処方箋医薬品の取扱いについて(医療機関及び薬局への周知依頼)

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