誤嚥性肺炎という言葉を聞いたことはありませんか?
「肺炎と何が違うの?」「誤嚥という言葉は聞いたことあるけど......」
高齢者とそのご家族の方との会話の中で出てくることも少なからずあります。加齢とともに避けて通れない嚥下機能と誤嚥性肺炎について知っていただければと思います。
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誤嚥性肺炎とは
誤嚥性肺炎とは食べ物等が気管に入ってしまうことにより起こる肺炎の総称です。
食べ物や唾液と一緒に口腔内の細菌が流れ込むことで炎症が起こり、命に関わる状態になることも少なからずあります。(1)
日本人の死亡率の第3位は肺炎になります。肺炎の患者さんの7割は75歳以上の高齢者であり、高齢者の肺炎のうち7割以上を誤嚥性肺炎が占めます。(2)
誤嚥性肺炎の原因
誤嚥性肺炎の要因は飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなることにあります。嚥下機能や咳をする機能が弱くなると、口腔内の細菌や食べかす等が気管に入りやすくなります。その結果、肺炎が起こります。(1)
誤嚥性肺炎の治療
誤嚥性肺炎は通常の肺炎と同様に抗生物質を用いた薬による治療が採用されています。抗生物質は肺炎には効果がありますが、誤嚥そのものを防ぐ効果はありません。そのため、口腔内を清潔にしたり、嚥下を行いやすくする運動等の日頃のケアが大切です。(3)
嚥下機能のチェック
誤嚥性肺炎がどのようなものかについて理解いただけたでしょうか?嚥下機能の低下が誤嚥性肺炎を引き起こす要因になります。そこで嚥下機能のチェックを行い、今の状態を把握してみましょう。
チェックシートの活用
嚥下機能のチェックシートを活用してみましょう。本人だけだと気付きにくいこともあるので、ご家族も一緒に取り組んでみましょう。
(引用:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tthc/hoken_iryo/checksheet.files/R2check.pdf p.1)
チェックシートの解説
ここからチェックシートに記載の9項目についての詳細を解説していきます。(4)
①食事中にむせることがある
むせは食べ物が喉頭や気管内に入りそうになると起こります。むせが起きた=誤嚥のサインとして認識しておきましょう。むせの発生は嚥下機能低下を疑う重要な要素です。
②唾液が口の中にたまる、よだれがでる
食事の時以外に分泌された唾液は口腔内にたまり、ある程度の量になると飲み込まれます。この飲み込みが飲み込む反応を判断する指標のひとつとなります。
③飲み込むのに苦労することがある
普段、問題なく飲み込めていたものが飲み込めなくなった時やかなり意識をして飲み込まなければいけなくなった時は嚥下機能低下が考えられます。
④固いものが噛みにくくなった
噛む時に使う筋肉や上手く噛むための動きの衰えがあると噛みにくく感じることがあるようです。
⑤舌に白い苔のようなものがついている
舌苔という白い苔のようなものが舌の上についていることがあります。舌苔は食べ物を咀嚼する時や嚥下する時の舌の機能が不十分である時や、唾液の量が少ない時に付着してきます。
⑥声が変わった(がらがら声)
痰が絡んだようながらがら声になったら注意が必要です。喉に上手く飲み込むことができなくなった食べ物や唾液がたまった状態によって引き起こされている可能性があります。
⑦よく咳をする
食事中だけではなく、食後しばらくたってから咳が出ることもあります。食事の際に上手く飲み込めなかった食べ物が喉に残っている場合、時間をおいて気管の方に入り込むと反射により咳が出ます。
⑧食事を残すことが多い(食べる量が減った)
食べられるものが減ったり食事時間が長くなったりすることで食べ残しが増えたり食べる量が減ったりします。食事をするための噛む機能や飲み込む機能が低下してしまうことが原因です。
⑨体重が減った(1ヵ月で5%以上、半年で10%以上)
嚥下機能の低下があると徐々に体重が減ってきます。特に1ヵ月で5%以上、半年で10%以上の変化がある場合は栄養状態にも問題がある可能性があるので注意してください。
誤嚥性肺炎の対策
誤嚥性肺炎についての理解は深まりましたでしょうか?誤嚥性肺炎の原因や治療の項目でも触れましたが、口腔内細菌が気道に到達することで発症するため、口腔ケアを誤嚥性肺炎を防ぐための対策の1つとして考えられています。また、誤嚥の観点から薬の服用の仕方についてもご紹介します。
口腔ケア
口腔ケアは①器質的口腔ケアと②機能的口腔ケアに分類されます。
①口の中の細菌や汚れを取り除くこと(器質的口腔ケア)
歯や舌のブラッシング、フロスの活用などがあります。
②口の機能を向上・維持させること(機能的口腔ケア)
口腔機能訓練やマッサージをすることで口の機能を向上・維持させることを指します。マッサージをして唾液分泌を促すことで口腔内の乾燥を防ぎ、細菌の増加の抑制、粘膜の脆弱化予防に繋がります。お手軽にできるマッサージを2種類紹介します。以下の画像を参考に家族の方も一緒に取り組んでみましょう。(5)
大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)マッサージ
小唾液腺(口腔粘膜)マッサージ
誤嚥を防ぐ薬の飲み方3選
薬を飲む時にも誤嚥のリスクはあります。安全に薬を飲むためにに3つの方法を紹介します。(6)
剤形変更の提案、服薬ゼリーの具体的な例、錠剤の剤形変更の提案(経験談でも)
①寝たきりの状態で飲ませない
横になった状態で服用すると薬が気管に入りやすくなります。必ず上半身を起こした状態で飲みましょう。
②多めの水で飲む
口腔内の乾燥が原因で薬を飲みにくく感じる高齢者は多いです。薬を飲む前に水や白湯を飲ませたり、多めの水で飲ませる方法がおすすめです。
③とろみや服薬ゼリーを活用する
ドラッグストアや薬局で売っている服薬ゼリーやとろみ剤の活用もおすすめです。服薬補助ゼリーの研究でも飲みやすさが評価されており、嚥下困難者に使用したところ、むせ返りや誤嚥も無く、嚥下可能であったという報告もあります。(7)
地域ごとのサポート事例の紹介
地域ごとに介護予防事業として誤嚥性肺炎に対するケアが行われています。地域によって取り組みが異なりますが、かかりつけ歯科医を持たない在宅の要介護高齢者に訪問歯科診療や口腔機能訓練などを実施しています。また、地域の方に向けて「口腔ケア講座」を実施している自治体もあります。(8)
まとめ
今回の記事を通して誤嚥性肺炎について理解を深めていただけたでしょうか?
加齢とともにリスクが高まるという点ではマイナスなイメージを持ってしまうかも知れません。しかし、正しい知識や対策法を知ることで安心して備えることができます。
かかりつけの薬局等の薬剤師に相談していただけると誤嚥性肺炎対策に関する提案をしてくれたり、地域からのサポートの窓口にもなってくれます。お気軽に相談してみて下さい。
【参照】
(4)摂食嚥下機能障害
(5)要介護高齢者の口腔ケア | e-ヘルスネット(厚生労働省)
(6)高齢者にくすりを飲ませるときの注意点|大日本住友製薬 健康情報サイト
(7)服薬補助ゼリーの開発 Development of Deglutition Aid Jelly for Oral Administration