「要介護者にならないために、自分でできることはないかな」
「高齢の家族のために、自宅でできることはないかしら」
介護をするためには、ご家族や介護士など周りの協力が重要ですよね。今回の記事では、介護を予防するために周りの方が行える具体的な対策について、薬剤師がご紹介していきます。
この記事を、不安の解消や対策に役立ててもらえたら嬉しいです。
サルコペニアとフレイルについて
まずは簡単に、サルコペニアとフレイルについてご説明します。
サルコペニアは「筋肉量が減少していく老化現象」、フレイルとは「体の予備力が低下し、身体機能障害に陥りやすい状態」のことです。
要介護認定に至る中でフレイル(高齢による衰弱)が要因となるのは13.4%を占めており、骨折や転倒も、フレイルやサルコペニアを経由して起こりやすいです。
要介護者の周りの方が行える、具体的な3つの対策とは、どんなものなのかご紹介していきます。
(引用:虚弱・サルコペニア予防における医科歯科連携の重要性p.9 図11)
現在、フレイル対策として推奨されている治療法は、運動・食事療法です。
具体的な3つの対策としては、①運動ケア②口腔ケア③食事ケアになります。どんな内容のケアなのか、詳しく見ていきましょう。
運動ケア
1つ目の対策は、運動ケアです。運動ケアでは、「ウォーキング」「筋トレ」の2つをご紹介します。まずは、生活の中にウォーキングを取り入れてみてください。正しい姿勢を意識することで、より全身が鍛えられ、血流の流れも良くなります。心肺機能を高めるためや体脂肪を減らすためにも、ウォーキングをおすすめします。
以下の4つを意識しながら、まずは10分ほどウォーキングをしてみましょう。
・背筋を伸ばす
・目線は真っ直ぐ前を見る
・かかとから足をつき、つま先で地面を蹴る
・歩幅を少し広げる
無理をせずに、楽しみながらの継続が大切です。慣れてきたら歩くスピードを上げたり、歩く時間を長くしたりしてみるのもいいでしょう。
次におすすめの運動ケアは、筋トレです。
筋肉の低下は、疲れやすさや膝痛・腰痛の原因となります。また筋力低下による転倒での骨折にも注意が必要です。骨折が原因で、寝たきりの生活や認知症になることもあります。転倒を防ぐためには、下半身を鍛えることが重要です。下半身が鍛えられる3つの筋トレを行って、転ばない身体を目指しましょう。[1]
(引用:http://www.health-net.or.jp/syuppan/leaflet/pdf/sarcopenia_frail.pdfp.10,11)
筋トレはおすすめですが、無理をするとケガや体調不良の原因になりかねません。
無理やり続けずに、休息をとりながら挑戦してみてくださいね。筋トレをして不調が続く方、運動に制限がある方は、医師や薬剤師にご相談ください。
口腔ケア
「最近、固いものが食べづらい」と感じることはありませんか?
また、「好きなものをずっと食べていたい」という願望はありませんか?
口の筋肉が衰えてしまうと、食べられるものがどんどん減ってしまいます。口の筋肉も、他の筋肉と同様に、鍛えることで機能回復に繋げられますよ。
好きなものを、不自由なく食べられる口腔環境を目指しましょう。
ここでは、おすすめの口の体操「パタカラ体操」をご紹介します。
パ:しっかり噛んで食べるための動き。食べこぼし対策になります。
タ:食べ物を飲み込むときの、舌先の動き。
カ:食べ物を食道に送るときの、舌の根元部分の動き。
ラ:食事をするときに必要な、舌の筋肉全体を鍛える動き。
早く、はっきりと大きな声で「パパパ、タタタ、カカカ、ラララ」、「パタカラ、パタカラ、パタカラ」と続けて、各5回ずつ発音してみましょう。[1]
(引用:http://www.health-net.or.jp/syuppan/leaflet/pdf/sarcopenia_frail.pdfp.12)
すでに口の筋肉が弱く、自力で口の運動が続けられない方もいるでしょう。そのような方は、補助器具を使って運動を継続するのもおすすめです。
介護現場やリハビリ施設では、口腔機能のトレーニングに用いられているアイテムもあります。
例えば、唇に固定して表情筋の動きをサポートする補助器具、飲み込む力(嚥下機能)のサポートをする器具などさまざまな種類があります。水洗いできるものが多く、衛生面も安心です。[2]
気になる方は、ぜひお近くの薬局で相談してみてください。
一人ひとりに合った方法で、対策をしていきましょう。
食事ケア
現在、日本では70歳以上の6人に1人が「新型栄養失調」と言われています。
新型栄養失調とは、硬いものを避け、食べやすいものに食事が偏った結果、栄養失調になることです。[3]
年齢とともに食事量が減る方、健康のために肉や卵、糖質が含まれる主食類を減らす方もいますよね。本人はきちんと食べているつもりでも、低栄養になり、見た目も老け込んでしまいます。
ところで、「食事をする際、たんぱく質を多くとったほうがよい」と聞いたことはありませんか?
1日に必要なたんぱく質量は、体重1kgあたり1gとされています。肉や魚、卵、豆類などの、たんぱく質を多くとる食事を心がけましょう。[1]
しかし、栄養が偏らない食事を続けることは、難しい場合もありますよね。
そのような方向けに、食品メーカーから栄養補助飲料が販売されています。栄養補助飲料の中には、味が何種類もあり選べるもの、少量で骨や筋肉が喜ぶ栄養補給ができるようになっているものもあります。
また、さまざまな栄養補助飲料を購入できる薬局もあります。筆者の薬局でも栄養補助飲料を販売しているのですが、「要介護者への栄養補給について知りたいです。」「食事があまり摂れていなくて不安です。何か良い方法はないですか?」という方にアドバイスをしています。気になる方は、ぜひお近くの薬局でご相談くださいね。
他の栄養剤に飽きてしまった、栄養補助飲料はマンネリ気味という方も、相談をきっかけに新しい可能性が見つかるかもしれませんよ。
ご家族の方に知ってもらいたいこと
ご本人だけでは、サルコペニア、フレイルの対策を行うことは難しいとお分かりいただけたでしょうか。ここでは、ご家族の方が知っておくべき内容をいくつかご紹介します。
ご家族や介護士など周りの方々が、要介護者ご本人と一緒に良い未来へ歩んでいただければ幸いです。
高齢者の1人暮らしの割合の現状
高齢者の1人暮らしは、年々増加しています。
2019年国民生活基礎調査の結果を見ると、65歳以上の半数が単独世帯となっています。
(引用:02 19結果の概要(1世帯0330)p3図3)
高齢者の1人暮らしでは、食事の時間が寂しく孤独になりがちです。孤独な食事は、栄養面での偏りや食事量の低下に繋がるおそれがあります。一方で、家族や友人がいると、一緒に食事をする「共食」になります。
共食はコミュニケーションを取りながら食事ができるため、食事は楽しい時間であると感じやすくなります。すると、食欲の増進や食べる品目数の増加繋がり、低栄養を避けることにも繋がります。
ご家族も一緒にできる対策とは
ご家族によるサポートは、要介護状態の進行を遅らせることに繋がります。例えば、今回の記事にある運動ケアは、ご家族の方も一緒に取り組める内容になっていますよね。早いうちに実践し、家族全員で健康な状態を維持していきましょう。
薬剤師にも相談を
「お医者さんは忙しそうだし、誰に相談したらいいか分からない。」
実際に、筆者もこのようなご相談を受けたことがあります。相談をした方は、要介護者ご本人の筋力低下や食事量の減少に悩まれていたご家族でした。今回の記事にあるような運動ケアを伝え、ご本人の状態改善に繋がり前向きになれたと感謝されたこともあります。
もし、お悩みを抱えているようであれば、近くの薬剤師に「〇〇について知りたい」「〇〇について悩んでいる」と気軽に声をかけてくださいね。
【参照】
(1)サルコペニア・フレイルを予防して健康寿命を伸ばそう
(2)歯科衛生だよりvol.46
(3)vol.171 新型栄養失調って何?OMRON