【薬剤師監修】介護現場で「いつもと同じ薬」が処方される背景

【薬剤師監修】介護現場で「いつもと同じ薬」が処方される背景

「いつもと同じお薬ですよ」
「今回、お薬が変更になっていますね」

薬剤師から薬を受け取るとき、このように言われたことはありませんか?

「いつもと同じ薬」や「変更になった薬」の裏側で、医療サポーターが何を考えているのか知りたい方も多いのではないでしょうか。
この記事では、高齢者の方に服薬指導をしている薬剤師の筆者が、具体的な流れを紹介していきます。
介護現場では、家族が薬剤師から薬を受け取り管理する機会が多いかもしれません。

この記事で注意するポイントをおさえ、高齢者のお薬管理に役立ててもらえると嬉しいです。

医師が薬を処方するまでの流れ

まず、医師が診療する流れについて確認していきましょう。
医師は、検査や診察をした上で薬を処方しています。
検査といえば、血液検査やレントゲン、CT、MRIなどの画像検査が思い浮かびますよね。
診察は厚生労働省からの通知により、以下のように説明されています。[1]

  • 問診 症状、飲んでいる薬やアレルギー歴などを質問
  • 視診 目で見て、体の状態を確認
  • 触診 手や指で体を触り、状態を確認
  • 聴診 心臓や呼吸の音などを聞いて状態を確認
  • その他

検査や診察した結果から、医師が薬の処方について決定するという流れになります。
また、薬の処方に関しては健康保険法の規則で決まりごとがあります。[2]

  • 必要な場合に薬を使う
  • 1つの薬で足りる場合は1つを、必要な場合に2つ以上の薬を使う

医師がひとりひとり現在の状態を診て、症状に合った薬を処方しているとわかりますね。

薬の量はどうやって決めている?

高齢になると、体の中で薬を分解(代謝)する機能が落ちることがわかっています。
高齢者の体には、若い世代と比べてどんな変化があるのでしょうか。

肝臓の機能

肝臓はいろいろな薬を分解しています。
年齢を重ねると、肝臓も衰えてしまうのは想像できますよね。[3]
その結果、薬の分解が遅れ、副作用が出やすくなってしまうのです。
高齢者の肝機能によって、薬の量を調整する必要があります。

腎臓の機能

腎臓は、薬を体の外に排出する働きをしています。
肝臓と同様、腎臓の働きも年齢とともに徐々に落ちていくものです。[4]
腎臓の働きが落ちると、薬が体から出ていかなくなり、薬の副作用が出やすくなってしまいますよね。
高齢者の腎機能によっても、薬の量を調整する必要が出てきます。

体重の減少

高齢者は、年齢とともに食事量が減り、十分な栄養を体に取りいれることが出来なくなります。[5]
高齢者は筋肉量の低下にともない、体重も減る傾向がありますよね。
最近では、サルコペニア(筋力の低下)フレイル(虚弱状態)とも呼ばれ、様々な対策がされています。[6]
体重が減ると、通常の薬の量では多くなるため、副作用が出やすくなってしまいます。体重の変化に合わせて、薬の量を調整しなおす対応は必要ですね。

家族からの情報

介護現場では、近くで見守る家族からの情報がとても重要です。

・最近、食欲が落ちてきた
・ふらついて立ち上がれなくなった
・朝起きれなくなった
・怒りっぽくなった

どれも薬の副作用として代表的な症状です。
いつもと違う様子に気づいたら、すぐに医療サポーターに伝えましょう。
薬の量を調整する必要があるかもしれません。

いつもと同じ薬・変更になった薬が処方される背景

高齢者の介護現場では、肝臓や腎臓、体重、さらには家族からの情報により、薬の量を検討するとわかりましたね。
医師はこれらを総合的に判断して、薬を処方します。
また、処方された薬は「ダブルチェック」として薬剤師も確認しています。
薬の情報は、看護師など他の医療サポーター達にもしっかり共有されるので、安心に繋がりますね。
では、在宅医療で「いつもと同じ薬」や「変更になった薬」が処方される背景には、医療サポーターのどんな考えがあるのでしょうか?

「いつもと同じ薬」の処方背景

薬は、医師が「現在の症状」に合わせて処方していましたよね。
ではなぜ「いつもと同じ薬」が処方されるのでしょうか?
現在の状態を確認した結果、副作用も出ておらず「いつもの薬で症状が落ち着いている」と医師が判断し、薬剤師のダブルチェックも行われた結果、処方薬が変わらない場合があります。
今の薬で落ち着いていれば、変更なく継続して服用することになるのです。
ただし、高齢者の機能はどんどん低下していきますので、継続してしっかりチェックする必要があります。

「薬が変更になった」の処方背景

では反対に、薬が変更になった場合はどんな理由が考えられるでしょうか?

  • 症状が良くなったので、薬を減らす・または中止になった
  • 効きすぎている可能性があるので、薬の量を減らす・または他の薬に変更した
  • 副作用の可能性があるので、薬の量を減らす・または他の薬に変更した
  • 効果が出ていないので、薬の量を増やす・または他の薬に変更した

どれも状態の変化を把握し、薬の変更に活かしています。
例えば、血圧が高い日が続いていれば薬の量を増やして血圧を下げ、血圧が下がってきたら元の量に戻すなど、こまめな調整が行われているのです。
体の機能や状態の変化に合わせて、薬が変わることは決して悪いことではありません。
むしろ、医師はじめ医療サポーターが連携し、しっかり状態を確認していると言えますよね。

変化は医療サポーターに伝えましょう!

この記事では、「いつもと同じ薬」や「変更になった薬」が処方される際、医療サポーターがどんな内容に気をつけているのかを解説しました。

  • 医師は検査、診察で状態を把握した上で、薬を処方している
  • 肝臓、腎臓、体重の変化、家族からの情報などを考慮し薬の量を調整する
  • 「いつもと同じ薬」は、症状が落ち着いていると医師が判断した結果
  • 「薬が変更になった」のは、状態に合わせて調整した結果

1番身近な家族が、本人の様子を医療サポーターや介護サポーターにしっかり伝えることも重要だと、改めておわかりいただけたのではないでしょうか?
気になった血液検査の結果や、血圧、体重などのデータは、看護師や薬剤師にも気軽に相談してみてくださいね。

【参照】

[1]情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について,健政発第1075号,厚生労働省健康政策局長
[2]保険医療機関及び保険医療養担当規則、第二十条 二 投薬,厚生労働省
[3]MSDマニュアル家庭版,肝臓への加齢の影響
[4]腎らいぶらり>腎臓にまつわる病気 > 高齢者と腎臓:加齢と腎臓
[5]日本人の食事摂取基準(2020 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書,厚生労働省
[6]元気にフレイル予防,厚生労働省
この記事のタイトルとURLをコピーする
採用情報