皮膚が赤くなっている部分やただれている部分に、塗り薬やテープのようなものを使用している高齢者を見かけたことはありませんか?
それは、褥瘡(じょくそう)の治療をしているのかもしれません。
では、褥瘡はどのように治療を進めるべきなのかご存じでしょうか。今回は褥瘡について、治療方法と薬をメインに解説していきます。
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褥瘡(じょくそう)とは
褥瘡は、一般的に「床ずれ」と呼ばれています。
寝たきりの状態が続くと、骨と皮膚の間に圧力がかかり続けてしまいますよね。その結果、組織(たくさんの細胞の集まり)が傷ついてしまい、組織壊死(組織が腐る)が起こる病気です。
褥瘡の治療について
褥瘡の治療は、褥瘡が発見されてからの期間や状態によって、治療方法が変わります。
ここでは、褥瘡の治療について、急性期と慢性期の2つに分けて説明します。
急性期褥瘡の治療法
急性期とは「状態が変化しやすい期間」のこと。
すなわち、急性期褥瘡とは、褥瘡が発見されてから1~3週間の「状態が変化しやすい褥瘡」のことです。(1)
急性期褥瘡は、さまざまな原因によって状態が短期間で変化するため、状況に応じた治療を行います。急性期褥瘡を治療する際の、3つのポイントを見ていきましょう。(2)
- 褥瘡の原因を調べる
治療を行う前に、まずは褥瘡になった原因を調べます。栄養状態が悪かったのか、ずっと同じ体勢で1つの場所に圧力がかかりすぎていたのかなど、褥瘡ができた原因を理解し取り除きます。
- 褥瘡を保護し、乾燥を防ぐ
褥瘡は、化膿してしまいジュクジュクと水分が多い状態になっています。褥瘡を保護し、乾燥を防ぐための、2つの方法をご紹介します。
2-1ドレッシング材を使用する
ドレッシング材(創傷被覆材)とは、褥瘡の治療に最適な皮膚の環境を作る医療用の素材のことです。ドラッグストアなどで見かけるガーゼとは、別のものになります。(3)
急性期は、褥瘡の状態がすぐに変化しやすいですよね。そのため、透明なドレッシング材を使用し、毎日褥瘡を観察できるようにしましょう。
また、褥瘡周辺の皮膚は弱くなっています。ドレッシング材を交換するときに、周辺の皮膚に負担をかけないよう気を付けましょう。ドレッシング材には、粘着力の強いものと弱いものがあります。粘着力の弱いものを使用すると、皮膚の負担を減らすことができますね。
2-2.塗り薬を使用する
急性期褥瘡では、主に褥瘡の保護効果が高い塗り薬を使用します。また、褥瘡への菌の繁殖を抑える塗り薬も使用されることがあります。
ただし、抗生物質が入った塗り薬は、耐性菌(抗生物質が効かなくなる菌)が発生する可能性があるため、推奨はされていません。(2)
抗生物質が入った塗り薬を使用するときは、医師や薬剤師からしっかりと説明を受けましょう。
- 痛みを緩和する
急性期褥瘡では、強い痛みも起こります。ドレッシング材の種類によっては鎮痛効果があるので、医師や薬剤師に相談してみてくださいね。それでも痛みがある場は、鎮痛薬を使用することも必要になります。痛みの緩和も、大事な治療の1つですね。
慢性期褥瘡の治療法
慢性期とは「状態の変化がなく安定した期間」のこと。
すなわち、慢性期褥瘡とは「急性期が過ぎ去り、どのくらい組織損傷が起こるか定まった褥瘡」のことです。(1)
慢性期褥瘡の場合、褥瘡の深さがどこまで達しているのか判断して治療を行うことが重要とされています。慢性期褥瘡の治療は、浅い褥瘡と深い褥瘡の2つに分類されます。(4)
■浅い褥瘡
浅い褥瘡とは、真皮(皮膚組織の1つ)にとどまっている褥瘡のことです。この場合、新しい皮膚が再生する可能性があるされています。
基本的には、急性期の治療と変わりありません。しかし、症状によって治療が少し異なります。
- 発赤(皮膚が赤くなる):ドレッシング材での保護を治療の中心としている。
- 水泡:水疱が割れていない場合は、ドレッシング材での保護を治療の中心としている。水疱が割れ た場合、吸水性のあるドレッシング材や塗り薬を使用する。
- びらん(ただれた状態)・浅い潰瘍(びらんより症状が悪化した状態):吸水性のあるドレッシング材や塗り薬を使用する。
■深い褥瘡
深い褥瘡とは、真皮を超えた深い部分まで進行している褥瘡のことです。この場合、壊死組織を取り除き、そこに新しい組織を作るという治療をしていきます。深い褥瘡は、症状に応じて順番に治療していきます。
- 組織壊死を取り除く
組織壊死がある場合は、まずは壊死している組織を取り除きます。方法としては、手術で取り除く、薬剤を使用し取り除くという方法があります。
- 損傷した部分の組織新生を促進する
壊死組織を取り除いたら、損傷した部分に新しい皮膚組織ができるよう手助けを行います。方法としては、基本的に塗り薬やドレッシング材を使用しています。
- 褥瘡を小さくする
組織壊死を取り除き、組織新生が促進すると、褥瘡が小さくなっていきます。この場合も塗り薬やドレッシング材が使われます。
- 感染症を抑える
褥瘡と同時に感染症が起こっている場合は、優先的に感染症の対策を行います。感染症により膿瘍(膿が溜まったもの)ができてしまった場合は、切開し取り除く必要があります。普段からしっかりと傷を洗浄することが大事です。
- 浸出液(傷から出る治癒を促進する液体)を抑える
傷によって浸出液が大量に出ることがあります。浸出液は傷の乾燥を予防するものですが、出すぎるのはよくありません。塗り薬やドレッシング材を使用して、浸出液が出すぎることを抑えます。
- ポケット(皮膚の下の組織にできた穴)を解消する
ポケットがある場合は、ポケットの解消を優先させます。方法としては、ポケット内に塗り薬を塗る、ドレッシング材を詰める、切開するという方法があります。だ、まだはっきりとした治療方法は確立されていません。
褥瘡は、症状の進行度や状態によって治療法がさまざまです。その都度しっかり担当医に確認してもらうことが大切ですね。
褥瘡で使われる薬について
褥瘡の治療について、理解していただけたでしょうか。治療の中で、薬を使用する場面が多々ありましたよね。
ここでは、褥瘡で使用する薬について解説します。
塗り薬の基材の分類・特徴
塗り薬にはさまざまな種類があります。実は、薬の「効果」は主成分(薬効成分)だけで決まる訳ではありません。褥瘡に関しては、「基材」と呼ばれる薬の基盤となる成分がとても大事になってきます。
基材自体には薬効成分はありませんが、基材の中に含まれている薬の主成分が効果を発揮しやすくするために、薬剤を保持する目的で使われています。
基材は大きく2つに分類されています。(5)
- 疎水性基材
疎水性基材は、「油脂性基材」とも言われます。油分で構成されるため、水となじまない性質があります。そのため、褥瘡など傷の保護・保湿に使用されます。 - 親水性基材
親水性基材は、「乳剤性基材」と「水溶性基材」に分類されます。普段何気なく使う塗り薬ですが、水分を吸収する役割があるのかなど基材にも特徴があります。薬の成分だけではなく、さまざまな背景から一人ひとりに適したものが選ばれていると分かりますね。
塗り薬は、薬の成分だけではなく基材の選択も大事なポイントです。ただ、ご家族や一般の方にとっては、聞き慣れない内容かと思います。興味のある方は、ぜひ周りの介護サポーターや医療サポーター(医師・薬剤師・看護師など)に相談してみてください。
使用される主な薬について
塗り薬の基材による特徴や分類について、理解していただけたでしょうか。褥瘡の治療では、傷口の状態に合わせた塗り薬を選択する必要があります。
ここでは、使用される主な薬について、4つの目的ごとにご紹介します。(6)
1. 壊死組織の除去に使用する薬
カデックス軟膏0.9%、ゲーベンクリーム1%、デブリサンペースト、ブロメライン軟膏5万単位/g、ユーパスタコーワ軟膏、ヨードホルムガーゼ、ヨードホルムなど
2. 感染時に使用する薬
カデックス軟膏0.9%、ゲーベンクリーム1%、ユーパスタコーワ軟膏など。
3. 創部の治癒に使用する薬
フィブラストスプレー、オルセノン軟膏0.25%、プロスタンディン軟膏0.003%、アクトシン軟膏3%、亜鉛化軟膏、アズノール軟膏0.033%、ソルコセリル軟膏5%、リフラップ軟膏5%など。
4. 創部の保湿・保護に使用する薬
亜鉛化軟膏、アズノール軟膏0.033%)、白色ワセリンなど。
先程説明した基材の性質や、褥瘡の状態を考慮して薬は選択されます。
薬もさまざま種類があるので、しっかり状態を診てもらい、状態に合った薬を使用することが大切ですね。
早めの処置と正しい薬剤の選択が大事
今回の記事では、以下について説明しました。
・褥瘡には、状態が変化しやすい急性期褥瘡、組織損傷が安定した慢性期褥瘡がある。
・急性期褥瘡では、原因を取り除く、褥瘡を保護し乾燥を防ぐ、痛みを緩和することが治療の中心となっている。
・慢性期褥瘡では、褥瘡の進み具合によって治療法が変わる。状態に沿った治療が中心となっている。
・褥瘡で使用される塗り薬には、薬効成分だけではなく基材も重要な役割をしている。
・褥瘡に使用される薬はさまざまな種類があるため、症状に応じた選択が大事。
褥瘡は、病気の進行具合や症状によって、治療法や薬が違ってきます。
進行すればするほど、治療も大変になっていきます。
そうならないためにも、普段から褥瘡の予防をし、皮膚に変化があればすぐに介護サポーターや医療サポーター(医師・薬剤師・看護師など)に相談してくださいね。
【参照】
(2)公益財団法人日本医療機能評価機構Mindsガイドラインライブラリ> 疾患・テーマの選択 > ガイドライン解説一覧 >(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン>第3章褥瘡の治療 急性期褥瘡の局所治療
(3)日本皮膚科学会ガイドライン>創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン(P3)
(4)公益財団法人日本医療機能評価機構Mindsガイドラインライブラリ> 疾患・テーマの選択 > ガイドライン解説一覧 >(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン>第3章褥瘡の治療 慢性期褥瘡の局所治療
(5)アルメディアWEB>Part6 褥瘡治療・ケアのカギを握るドレッシング材・外用薬の使い方>外用薬が効くメカニズムを知って、効果的な使用法を