「最近、要介護者がぼんやりしている」
「話しかけても反応が鈍い」
「日中でも、うとうとしていることが多い」
介護現場で、要介護者のいつもと違う様子に気づくことはありませんか?
ぼんやりしたり、うとうとしたりしやすくなると、ケガや事故につながりかねないので、特に注意が必要です。
今回の記事では、介護現場をサポートしている現役薬剤師が、以下を中心に解説します。
- 「ぼんやり・うとうと」症状の危険性
- 「ぼんやり・うとうと」症状の原因とは
- 飲んでいる薬による「ぼんやり・うとうと」症状
介護現場において、要介護者の異変に気づくヒントになれば嬉しいです。
「ぼんやり・うとうと」している時に気をつけたいこと
介護現場で、要介護者の「ぼんやり・うとうと」症状に気づいたときは、周りの家族や職員に伝えるようにしましょう。
なぜなら「ぼんやり・うとうと」症状には、いろいろなリスクが潜んでいる可能性があるからです。
病気の可能性
もしかすると、「ぼんやり・うとうと」症状は何らかの病気のサインかもしれません。
何かあったときのために、いつもと違う症状を共有しておくと、早めの検査や適切な治療の開始につながります。
そのためにも、家族や職員の方が病気のサインに気づくことが重要です。
転倒やケガのリスク
「ぼんやり・うとうと」症状によって、足元がおぼつかなくなり、うまく歩けず転んでしまうことが考えられますよね。また、椅子に座っていても、ふらついて椅子から落ちることもあります。
特に危ないのは「転倒による骨折」です。
この危険を避けるために、歩行や入浴介助の際は細心の注意を払わないといけません。
食欲が低下してしまう
「ぼんやり・うとうと」症状によって、食欲が低下してしまうこともあります。
食事が満足にとれなくなると、心配なのは「栄養状態の悪化」ですよね。体調を崩しやすくなり、飲んでいる薬の効果にも影響を及ぼすことがあります。
誤嚥(ごえん)
私たちが食べ物や飲み物を飲み込むとき、気管の入口のフタ(喉頭蓋:こうとうがい)が閉まることで、気管に飲食物が流れ込まないようになっています。このフタが閉まると、気管ではなく食道に飲食物が流れるという仕組みです。
「ぼんやり・うとうと」症状がおこると、動作自体が遅くなります。フタが閉まるタイミングが遅れてしまい、飲食物が食道ではなく、誤って気管に入り込んでしまいます。
この状況を「誤嚥(ごえん)」といい、炎症を起こし誤嚥性肺炎になる可能性があるので、注意が必要です。
「ぼんやり・うとうと」症状の原因
いろいろなリスクがある「ぼんやり・うとうと」症状は、どういった原因で起こるのでしょうか。考えられる原因を見ていきましょう。
病気や体調不良が原因
病気や体調不良の症状として「ぼんやり・うとうと」することがあります。
代表的な病気や体調不良をまとめてみました。
認知症の周辺症状として、気分が落ち込み、無気力になる |
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うつ病 |
気分が落ち込んで、無気力になる |
てんかん |
てんかん発作の症状で、ぼんやりした目つきになる[1] |
脳卒中 |
脳の血管の異常で、ぼんやりする[2] |
体内の水分やミネラルのバランスが崩れ、ぼんやりする |
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不眠症 |
睡眠がしっかりとれず、日中にぼんやり・うとうとする |
疲労 |
疲れてしまい、ぼんやり・うとうとする |
飲んでいる薬の影響
ほとんどの要介護者は、持病で薬を飲んでいますよね。
飲んでいる薬が効きすぎていたり、薬を間違えて飲んでしまったりすると、「ぼんやり・うとうと」症状が出やすくなります。
「ぼんやり・うとうと」症状は、病気や薬による重要なサインかもしれません。重要だからこそ、介護サポーターと医療サポーター(医師・薬剤師・看護師など)の連携が必要になります。
「ぼんやり・うとうと」症状が続く場合は、必ず医療サポーターに相談しておきましょう。
薬の影響を疑いましょう
先ほど「ぼんやり・うとうと」症状は、飲んでいる薬の影響かもしれないことをお伝えしました。
そこで、より注意して要介護者を観察できるよう、どんな薬によって「ぼんやり・うとうと」症状が出やすいのか知っていきましょう。
向精神薬(こうせいしんやく)
眠れない時や落ち着きたいときに飲むような、中枢神経系に作用して精神活動に何らかの影響を与える薬を、まとめて「向精神薬」と呼んでいます。[3]
向精神薬によって「ぼんやり・うとうと」症状がおこるケースは、以下が考えられます。
- 夜だけでなく日中にも、睡眠薬の効果が残ってしまう
- 症状に対して、安定剤が効きすぎている
- 間違って、処方よりもたくさんの数の向精神薬を飲んでいる
対策は、要介護者が飲む薬の用量や種類が本当に適切なのか、確認を怠らないことです。薬を正しく飲んでいるのか、しっかり把握するよう心がけましょう。
糖尿病の薬
糖尿病は、血液の中に必要以上の糖分がある病気です。
糖尿病の薬は、血液の中にある糖分(血糖)を減らします。
しかし、糖尿病の薬が効きすぎると、血糖が下がりすぎて「低血糖」になってしまいますよね。
「ぼんやり・うとうと」症状は、低血糖でおこる症状のひとつです。
食欲がなく食事量が少ないのに、いつもどおり糖尿病の薬を飲んでしまった場合は注意が必要ですね。
ただ、すべての糖尿病の薬が低血糖になりやすいかというと、そうではありません。
飲んでいる薬が「低血糖を起こしやすい種類かどうか」については、薬剤師に確認しておきましょう。
血圧の薬
血圧が高い方は、血圧の薬を飲み、適切な血圧に落ち着かせますよね。
しかし、脱水など何らかの事情があると血圧の薬が効きすぎてしまい、いつもより血圧が下がってしまうことも。これがいわゆる「低血圧」の状態です。
血圧が低くなると、脳の中の血流が減ってしまい、「ぼんやり・うとうと」症状がでてきます。
また、血圧の薬として使われる薬の中に、「利尿剤」があります。利尿剤は、体内の余分な水分を尿として体の外に出す薬です。これにより血圧を下げる効果がありますが、「血流が減りやすい」という点に関して、より注意が必要となります。
多剤服用(ポリファーマシー)
ひとつひとつの薬は適切な用量でも、何種類もの薬を飲んでいると、お互いに薬の効果を強めたり弱めたりしてしまいます。何種類も薬を飲む多剤服用が「ぼんやり・うとうと」症状がでる原因となる可能性も、否定できません。
また、たくさんの薬を飲むと、副作用や飲み間違いなどのリスクがありますよね。このたくさん薬を飲んでいる状態が、ポリファーマシーです。
厚生労働省のホームページにも、6種類以上の薬を飲んでいると注意が必要というデータもでています。[4]
「ぼんやり・うとうと」症状は、医療サポーターに相談しましょう
この記事では以下について解説しました。
- 「ぼんやり・うとうと」症状には、病気の可能性、ケガや転倒、誤嚥などのリスクがある
- 「ぼんやり・うとうと」の原因は、病気によるものと、薬の影響が考えられる
- 「ぼんやり・うとうと」の原因となる薬は、特に以下が考えられる
①向精神薬
②糖尿病の薬
③血圧の薬
④多剤服用(ポリファーマシー)
家族や職員の方が、要介護者の「ぼんやり・うとうと」症状に、いち早く気づくことがポイントです。そして、その情報を医療サポーターに伝えて連携すれば、病気や薬の副作用に素早く対応することができます。
どんな小さなことでも、ぜひ医療サポーターに相談してみてくださいね。
介護現場において、薬のことでお困りの点がありましたら、お問い合わせフォームからご連絡ください。
【参照】
[1]てんかんinfo > てんかんとは > てんかん発作の種類:解説映像
[2]公益社団法人 日本脳卒中協会 > 市民の皆さまへ > 脳卒中についてもっと知りましょう!> 脳卒中の主な症状
[3]公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センター > 薬物乱用防止のための基礎知識 > 乱用される薬物の種類と影響 > 向精神薬
[4]高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編,2018年5月,厚生労働省,P2,ポリファーマシーの概念