【薬剤師監修】介護現場で知っておきたい「薬が飲みにくくなる老化現象」

【薬剤師監修】介護現場で知っておきたい「薬が飲みにくくなる老化現象」

「薬が入っている袋(薬袋:やくたい)に書いてある文字が見えにくい」
「手が震えて、薬がうまく飲めない」

高齢者は身体機能が低下し、日常生活にも影響が出てきますよね。
薬を飲む時に、間違えていないかヒヤっとすることがあるかもしれません。
どんな老化現象が、服薬に影響するのか知っておくと、介護現場でも役立つのではないでしょうか。

今回の記事では、介護現場をサポートしている現役薬剤師の筆者が、以下を中心に解説します。

  • 薬が飲みにくくなる、老化現象の例
  • 老化現象に対する薬局のサポート

安心安全に薬を飲んでもらうため、介護現場の方々に知っていただけたら幸いです。

服薬に影響する5つの老化現象とは

高齢者はしだいに身体機能が低下するため、日常生活に支障が出てしまいます。
となると、治療に大切な薬の服用(服薬)への影響も考えられますよね。
服薬に対して、老化現象によりどんな影響が出るのか考えてみましょう。

目が見えにくい

年齢とともに、物が二重に見えたり、かすんだりしますよね。[1]
目が見えにくくなると、以下のように薬を飲むときに困ってしまいます。

  • 薬袋(やくたい)に書いてある、用法用量の文字が見えない
  • 薬の説明が書いてある、薬情(やくじょう)の文字が見えない
  • 手のひらに乗っている薬が、いくつあるのかわからない
  • 錠剤の色や形の違いが分かりにくい

間違った用法や用量で薬を飲んでしまう可能性があり、とても危険です。

耳が聞こえにくい

加齢とともに、耳が聞こえにくくなります。
音だけではなく、会話も聞き取りにくくなるのが特徴です。[2]

  • 薬が床に落ちた音が聞こえない
  • 吸入薬の操作の音に気づかない
  • 薬剤師からの薬の説明が聞こえない

薬を安全に使用できるか、不安になってしまいますよね。

手が動かしにくい、手が震えてしまう

手の関節の痛みや、パーキンソン病など高齢者によくみられる手の震えも、薬を飲みにくくする原因のひとつです。[3]

  • 薬を取り出しにくい
  • 手のひらの薬を落としてしまう
  • 薬を口に運ぶまでに落としてしまう

薬を落としてしまうケースが多く、医師の処方どおりに飲めていない可能性がありますよね。

飲み込みにくい

高齢者は、嚥下(えんげ)という飲み込む機能が低下することがあります。[4]
水分や食べ物をなかなか飲み込めず、飲み込んだものが気管に入り、むせたり咳込んだりしてしまうのです。

  • 薬をゴクンと飲み込めない
  • 薬をうまく飲み込めず、むせてしまう

薬を飲み込めないと、医師が期待している薬の効果が出ない可能性がありますよね。

認知症がある

65歳以上の高齢者の5人に1人が発症すると言われているのが、認知症です。[5]
認知機能が低下し、日常生活に支障が出てきます。

  • 薬をいつ飲めばよいか、わからない
  • 薬を飲んだのか、わからない
  • どの薬を飲めばいいのか、わからない
  • 薬を飲むことすら忘れてしまう

薬を飲むことが出来ない時もあれば、間違って薬を飲んでしまい、体調を崩す危険もありますよね。

服薬に関する薬剤師のサポート

服薬に影響する5つの老化現象は、どれも薬を飲み間違える可能性がある、危険な状態です。
安心安全に薬を飲んでもらうために、薬局ではいろいろなサポートをしています。

目が見えにくいことへの対応

薬袋に書いてある用法用量が見えにくい場合は、大きな文字に変更できます。
薬情はA4サイズが一般的ですが、大きいA3サイズへの変更も可能です。

実際に薬局で働いていると、一包化に書かれている「朝食後」「昼食後」「夕食後」の区別がつきにくい、という相談を受けることもあります。
一包化とは、服用する時間が同じ薬を1つのパック包装にまとめることです。

一包化の文字を、分かりやすく「あさ」「ひる」「ゆう」とひらがな表記にしたり、朝は黄色、昼は赤などラインでの色分けを加えたり、ひと目で認識しやすくするための変更もできますよ。

耳が聞こえないことへの対応

耳が聞こえにくい場合は、大きな声でゆっくりと、薬に関する情報をお伝えしています。
それでも聞こえない場合は、筆談で説明する場合も。

あらかじめ、近くの薬局が筆談など耳が不自由な方にも対応できるのか知りたいときは、各都道府県の薬局検索サイトで検索してみましょう。

手が動かしにくい、手が震えてしまうことへの対応

要介護者が手が動かしにくいとき、手が震えてしまうときには、一包化をおすすめします。

しかし、一包化してある薬でも、手のひらに乗せてから飲もうとすると、手が震えたら落としてしまいますよね。ある介護施設では、まずプラスチック製のコップに一包化の薬を出し、確認してから飲むという対策をしているそうです。

飲み込みにくいことへの対応

薬が飲み込みにくい場合は、とろみ調整食品を使うと便利です。
とろみ調整食品でとろみをつけた水やお茶と一緒に、薬を飲み込みます。
すると、薬がゆっくりと食道に流れ込むため、飲み込みやすくなりますよ。
とろみ調整食品のほかに、服薬ゼリーやオブラートもおすすめです。

認知症への対応

在宅介護の場合は、ケアマネジャーが、ケアプランにヘルパーによる服薬確認を入れる場合があります。しかし、回数にも限りがあるため、1日3回薬を飲むタイミングに合わせたヘルパーの訪問は難しい状況です。
その際は、訪問看護師や薬剤師、ヘルパーの訪問時やデイサービスへの通所時など、上手く分担しながら服薬確認をしていきましょう。

たとえば、1日3回飲む薬を持続性のある1日1回の薬に切り替えるなど、医師に服用回数を減らす相談ができます。このように、要介護者一人ひとりに沿った提案を考えていけると助かりますよね。

服薬に困ったら薬剤師に相談しましょう

今回の記事では、服薬に影響する老化現象と、薬剤師のサポートについて紹介しました。

  • 服薬に影響する老化現象は5つ
    ①目が見えない ②耳が聞こえない ③手が動かしにくい ④飲み込みにくい ⑤認知症
  • 5つの老化現象それぞれに対して、薬剤師がサポートできる

服薬について困っていることは、人それぞれ違います。
徐々に支障がでることもあれば、急に薬が飲めなくなることも。

大事な薬が飲みにくくなると、とても不安になってしまいますよね。
そんな時は、ぜひ薬剤師に相談してみましょう。

この記事が、介護現場の不安を少しでも和らげられれば嬉しいです。

【参照】

[1]健康長寿ネット >  高齢者の病気 > 老年症候群 > 視力低下
[2]高齢者の難聴,増田 正次,日本老年医学会雑誌,2014,51:3
[3]わかりやすい病気のはなしシリーズ24 本態性振戦,日本臨床内科医会
[4]健康長寿ネット >  健康長寿とは > 高齢者と食事 > 高齢者の摂食・嚥下(えんげ)機能に影響する要因
[5]厚生労働省 みんなのメンタルヘルス > こころの病気を知る > 認知症
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